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#15 海外への資金流出を減らして国内の生産を増やす – 日本経済復活のための5つの戦略〈4〉

前回の記事では、IMFやOECDの統計データ、各国各種機関のHPより作成した分析結果に基づき、【戦略③】「革新的な技術で人口に頼らない経済の仕組みをつくる」に焦点を当てて、人口が今後1千万人を割る状況になる日本で、今後参考にすべき方向性を検討した。

人口が今後急減すると働く人も需要も減るため、生産性が変わらなければ経済規模は小さくなる。そうした状況下では高単価な経済を作り、一人当たりのGDPを上げて、それを還元することが重要となる。そのためには、高単価な対価を得られるだけの高い付加価値を作り続けられる産業を複数構築し、さらにその元となる技術革新や、技術革新を支える仕組みを構築していく必要があることがわかった。

しかしこうした高付加価値型の経済構造にさらに進化していくことは、今後の方向性としては重要であるものの、今すぐ結果が出ず息の長い取り組みとなる。その結果が出るまで悠長に構えている時間は日本には段々となくなってきているのが現状であろう。

一方で、足元では貿易赤字が年々拡大している。日本はエネルギーや食糧など多くの品目が輸入依存の状態であり、これを国産化して国富の流出を防ぐことが短期的には有効な手段であろう。

本記事では、輸入依存の現状を確認し、それらを国産化して代替することでどれくらいの国富を取り戻すことができそうなのかを考えてみることとしたい。

日本経済復活のための5つの戦略

  1. 【戦略①】とにかく生産性を上げ続ける
  2. 【戦略②】全国で新規事業を立ち上げて売上を伸ばし続ける
  3. 【戦略③】革新的な技術で人口に頼らない経済の仕組みをつくる
  4. 【戦略④】海外への資金流出を減らして国内の生産を増やす← 今回の記事
  5. 【戦略⑤】海外市場の成長を自社の成長につなげる

【戦略④】海外への資金流出を減らして国内の生産を増やす

日本は世界有数の経済大国でありながら、エネルギー・食料・製造基盤の多くを海外に依存している。2024年の輸入総額は約112兆円に達し、名目GDPの約20%を占める。これは単なる貿易構造の問題にとどまらず、経済安全保障、雇用、地域産業の持続可能性に直結する課題である。

本稿では、輸入額上位の3分野(①機械類・輸送用機器、②鉱物性燃料、③食料品)に焦点を当て、国産化・代替技術による外部流出抑制の可能性を検討する。併せて、企業・政策・地域の連携による実現方策を提示する。

日本の主要輸入品目と外部流出の実態

財務省貿易統計(2024年)によると、品目別輸入額上位10品目は以下の通りである。

図表1:2024年 日本の輸入額上位10品目(財務省統計より)

順位品目輸入額(兆円)構成比概要
1機械類・輸送用機器32.9629.3%自動車部品、工作機械、航空機、船舶、通信機器など。製造業・輸送インフラの基幹部品。
2鉱物性燃料(原油・LNG等)25.5022.7%原油、液化天然ガス、石炭など。発電・交通・産業用エネルギー源。
3食料品(穀物・畜産・水産物)約11.2010.0%小麦、大豆、牛肉、魚介類など。日本の食料自給率低下に伴う輸入依存。
4医薬品・医療機器約6.505.8%医薬品原料、医療用消耗品、診断機器など。高齢化社会で需要増。
5化学品(中間体含む)約5.004.5%有機・無機化学品、医薬品原料、樹脂など。製造業の素材供給源。
6衣類・繊維製品約4.904.4%衣類、布地、繊維製品。中国・ASEAN諸国からの輸入が中心。
7電子部品・半導体約4.203.7%半導体、基板、センサーなど。自動車・家電・IT機器に不可欠。
8光学・精密・医療用機器約5.013.0%顕微鏡、測定機器、手術器具など。高精度機器の輸入が多い。
9プラスチック製品約5.363.2%包装材、工業用部品、家庭用品など。汎用性が高く輸入量も多い。
10家具・寝具約5.133.1%ソファ、ベッド、収納家具など。中国・ベトナムからの輸入が主。
財務省貿易統計(2024年)よりRevitalize作成

上位3品目(機械類・輸送用機器、鉱物性燃料(原油・LNG等)、食料品(穀物・畜産・水産物))だけで輸入総額の約60%を占めており、外部流出の主因となっている。

さらに上位10品目で総輸入額の約90%近くを占めており、いずれも生活・産業・医療・エネルギーに直結する重要分野である。国産化や代替技術の導入によって、外部流出の抑制と経済安全保障の強化が期待される。

国産化・代替可能性の検討

  1. 機械類・輸送用機器

現状と課題

日本は高度な製造技術を有する一方で、航空機部品、半導体製造装置、EV関連部品など一部領域では輸入依存が続いている。特にEV化の進展に伴い、バッテリー、モーター、制御系部品の輸入が増加傾向にある。

国産化の可能性

  • 精密加工技術、材料工学、制御技術に強みを持つ中堅企業の活用
  • 地域産業クラスター(例:浜松の輸送機器、長岡の工作機械)の再活性化
  • 大学・高専との共同研究による技術革新

想定削減額

輸入額のうち約30%(約10兆円)を国内生産に転換可能と試算。

  1. 鉱物性燃料(代替技術による対応)

現状と課題

日本はエネルギー資源のほぼ全量を輸入に依存しており、原油・LNG・石炭が主力。地政学的リスクや為替変動の影響を受けやすく、経済安全保障上の脆弱性が顕著。

代替可能性

  • 再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、バイオマス)の導入拡大
  • 蓄電池技術(全固体電池、リチウムイオン電池)の国産化
  • 水素・アンモニア燃料の製造・供給体制整備

想定削減額

再エネ導入と電池技術の国産化により、輸入燃料の約20%(約5兆円)を代替可能と試算。

  1. 食料品

現状と課題

日本の食料自給率は37%(2022年)と低水準。特に小麦、大豆、飼料作物はほぼ輸入依存。農業従事者の高齢化、耕作放棄地の増加、生産性の低さによる収益性の低さが課題。

国産化の可能性

  • スマート農業(AI・IoT・ドローン)の導入による生産性向上
  • 耕作放棄地の再活用と地域農業法人の育成
  • 消費者教育による国産品選好の醸成

想定削減額

食料品輸入のうち約30%(約3.3兆円)を国産化可能と試算。

合計試算:外部流出抑制のインパクト

分野輸入額(兆円)国産化・代替可能割合想定代替額(兆円)
機械類・輸送用機器約3330%約10
鉱物性燃料(代替技術)約2520%約5
食料品約1130%約3.3
合計約18.3兆円

この18兆円超の外部流出抑制は、単年度での試算であり、10年スパンで見れば180兆円規模の経済的インパクトとなる。加えて、雇用創出、地域振興、技術蓄積、環境負荷低減などの波及効果も期待できる。

ただし、当然ながらこれら短期間に実現することは不可能であり、数十年かけて生産体制の構築を図らなければならないため、早期の着手が必要である。

日本企業に求められる対応

国産化や代替技術の実現に向けては、企業自身が戦略を転換し、産業構造の再設計に取り組むことが不可欠である。具体的には、以下の4つの観点からの対応が求められる。

第一に、技術投資と設備更新が急務である。EV関連部品や蓄電池、再生可能エネルギー機器などの製造設備への積極的な投資が必要であり、農業分野においてもスマート農業機器の導入と、それを運用する体制の整備が求められる。また、高度な加工技術や材料技術の研究開発を強化することで、国内技術力の底上げを図ることができる。

第二に、地域連携と産業クラスターの形成が重要となる。地域の中堅企業、大学、自治体が連携し、産業集積を再構築することで、地産地消型のサプライチェーンを構築し、物流の効率化にもつなげることが可能となる。

第三に、人材育成と組織改革が欠かせない。技術者、農業従事者、エネルギー技術者などの人材を育成するとともに、多様な働き方や地域雇用の促進によって人材確保を図る必要がある。加えて、企業内にイノベーションを促進する文化を醸成することも、持続的な成長には不可欠である。

そして第四に、政策連携と資金調達の体制整備が求められる。経済安全保障法、農業基本法、GX推進法などの関連政策との連携を図りつつ、政府系金融機関や地方銀行との協調による資金調達支援を受けることが望ましい。また、税制優遇措置や補助金制度の活用によって、企業の取り組みを後押しする環境を整えることができる。

まとめ──国産化は守りではなく攻めの戦略

国産化・代替技術の推進は、単なるコスト削減やリスク回避ではなく、日本経済の持続可能性と競争力を高める「攻めの成長戦略」である。企業がこの構造転換に挑むことで、外部流出を抑えつつ、地域経済の再生、技術力の強化、雇用創出を実現することが可能となる。

今こそ、日本企業・政策・地域が一体となって、輸入依存から脱却し、外部流出しているビジネス機会を取り戻すべきではないだろうか。

次回の記事では、「【戦略⑤】海外市場の成長を自社の成長につなげる」について検証する。


参考文献

衰退先進国からの脱却シリーズ7「貿易収支赤字常態化し、円安進展する日本 令和版傾斜生産方式の提案 ~鉄鋼、化学、農業、林業、再エネへの超重点的な投資による日本経済の再生」、宮本義昭 (著)、株式会社バルステクノロジー


監修:一般社団法人人口減少対策総合研究所理事長 河合雅司
執筆協力:株式会社Revitalize取締役兼CBO 増山達也・CFO 木村悦久、小村乃子


文責

片桐 豪志

株式会社Revitalize 代表取締役兼CEO

三菱総研、Deloitte、McKinseyを経てRevitalizeを創業。中小企業・SU・イノベーション・産学連携の政策・事業の企画立案・実行支援に強み。一番長くを過ごしたDeloitteではパートナーまで務め、イントレプレナーとして多数の新規事業立ち上げとスケールアップを実現してきた。より根本的な社会課題解決に取り組むべく、創業を決断。