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#7 なぜ中小企業で働く若者の給料が上がらないのか?3つの原因を解説

前回の記事では、中小企業庁の「2024年版中小企業白書」と厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査の概況」に基づき、日本の人口減少の根本的な原因は、「中小企業で働く若者の給料が少ないこと」にあるとわかった。日本の20〜30代男性のほとんどが中小企業で働き、平均年収は300〜400万円で、30代男性の約半数しか結婚できていないのだ。本記事では、なぜ中小企業で働く若者の給料が上がらないのか、その原因を特定していく。

なぜ中小企業で働く若者の給料が上がらないのか?

本稿では、中小企業で働く若者の給料が上がらない原因を明らかにするため、①そもそも企業の売上が増えていないのか、②配られる給料が増えていないのか、③引かれるものが増えているのか、3つの仮説に分解した。

仮説① そもそも企業の売上が増えていない

まず、「①そもそも企業の売上が増えていない」仮説について見てみよう。
財務省の「日本企業の国内売上高の推移」によると、売上は1970年代前半までの高度経済成長期や、1980年代後半からのバブル経済期に急成長していた[i]。しかし、1991年頃のバブル崩壊を境に成長が止まり、売上の伸びない状態が30年以上も続いている。「失われた10年、20年、30年」と解決できないまま伸びてきて、来年には「35年」に到達する。
この30年間、多くの企業はコスト削減で利益を増やしてきたが、新しい事業への投資はあまり行われず、残ったお金は「内部留保」として蓄えられているとされている。企業が利益を蓄えておくことは大切であり、使い方は自由だとしても、そもそも売上が増えていない現状こそ大きな問題ではないだろうか。

図表1. 日本企業の国内売上高

仮説② 配られる給料が増えていない

次に、「配られる給料が増えていない」仮説について見てみよう。
「利益は増えているのだから、給料に回してくれてもいいじゃないか」―そう感じるのも一理ある。しかし、財務総合政策研究所の「給与の総額」を見てみると、日本企業の給料は1991年頃のバブル崩壊までは増えていたが、その後はほとんど増えず横ばいが続いている[ii]
1990年代後半から、日本では約30年間「デフレ」が続き、物の値段が下がり続けた。企業は原材料費が上がっても価格を上げられないため、利益が減り、従業員の給料を上げる余裕がなくなる。すると、消費者は節約して買い物を控えるようになり、さらに物の値段が下がる。この悪循環が、中小企業で働く若者の給料が上がらない大きな原因の一つであると考えられる。

図表2. 給与の総額

仮説③ 引かれるものが増えている

最後に、「③引かれるものが増えている」仮説について見ていく。
給料から引かれるお金には、税金と社会保険料がある。税金は、所得税や住民税などで国や地域の運営に使われ、社会保険料は、年金や健康保険など助け合いのために支払うものだ。
財務省の「国民負担率」によると、税金や社会保険料の負担は2004年度の34.5%から2024年度には45.1%に増えた[iii]。稼いだお金の約半分が使われることを示している。
さらに詳しく見てみると、高齢化で医療や介護の社会保障費の負担は14%から18%と約3割増えた。税負担も、消費税の10%への引き上げや、新たに復興所得税や森林環境税の導入により、21%から27%と約3割増えた。ガソリン代や電気代も上がり、スマホやインターネットの普及で固定費が増え、食材の値上がりも続き、生活コストが上がり続けている。

図表3. 国民負担率の推移

まとめ

結論として、中小企業で働く若者の給料が上がらない大きな原因は、そもそも企業の売上が増えておらず、給料を増やせないためであることがわかった。その一方で、引かれるものや生活コストが増えているため、手取りはさらに減っているのだ。
手取りが減ると、結婚や子育てに使えるお金が少なくなり、生活が厳しくなる。将来が見えにくい不況の中で育った若者にとって、長期的な計画である結婚や子育てに意識が向かないのも無理はないと言えよう。

したがって次回の記事では、なぜ中小企業の売上が増えていないのかを考える。「業種別の企業数」や「業種別の売上金額」などのファクトを把握し、中小企業の売上の実態を把握していきたい。


[i] 財務省、法人企業統計より作成、金融業保険業を除く全業種の売上高合計の推移
[ii] 財務表 財務総合政策研究所「法人企業統計調査 時系列データ」
(https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003060791)
[iii] 財務省「国民負担率の推移」(https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/futanritsu/20240209.html、https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/futanritsu/sy202402a.pdf)

監修:一般社団法人人口減少対策総合研究所理事長 河合雅司
執筆協力:株式会社Revitalize取締役兼CBP 増山達也・CFO 木村悦久、小村乃子


文責

片桐 豪志

株式会社Revitalize 代表取締役兼CEO

三菱総研、Deloitte、McKinseyを経てRevitalizeを創業。中小企業・SU・イノベーション・産学連携の政策・事業の企画立案・実行支援に強み。一番長くを過ごしたDeloitteではパートナーまで務め、イントレプレナーとして多数の新規事業立ち上げとスケールアップを実現してきた。より根本的な社会課題解決に取り組むべく、創業を決断。