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#6 日本の若者の平均年収から見る少子化問題

前回の記事では、国立社会保障・人口問題研究所の「未婚者の結婚意思調査結果」と内閣府の「令和5年度 年次経済財政報告」に基づき、年収と結婚は、明確な関係があることがわかった。「結婚はしたいけどお金がない」問題が、若者の婚姻率の低下に大きな影響を与えているのだ。本記事では前回の記事に続き、なぜお金がないと感じる若者が多いのか、その原因を特定していく。

「お金がない若者」の実態とは?

低収入の非正規労働者などからは、「毎日働けど働けどお金が出ていくばかりで、結婚どころじゃない」という声をよく聞く。近年、日本では多くの人々が経済的な厳しさを感じており、特に若い世代への影響は深刻である。この状況は少子化にも直接影響を及ぼしている。
本稿では、特に年収が低い層の経済状況を把握するため、結婚適齢期にあたる20〜30代男性に焦点を当て、①就業先、②平均年収という2つの観点から少子化との関連を考察した。

実態① 就業先

まず、①就業先について見てみよう。そもそも多くの日本人が給料を受け取っている会社のほとんどは、中小企業である[i]。中小企業庁の「規模別の企業数」を見てみると、日本企業のうち99.7%が中小企業であり、約336.5万社に上る。東京などの都市部では大企業が目立つが、大企業はわずか0.3%と約1万364社しか存在しないため、中小企業を大多数として考えるべきである。

図 規模別の企業数割合

従業員ベースではどうだろうか。先と同様に、中小企業庁の「規模別の従業者数」を見てみると、中小企業で働く人は2,714万人で全体の65.6%と、日本人の約7割を占めている[ii]。一方、大企業で働く人は1,424万人で全体の34.4%と、約3割である。ここから、日本の20〜30代男性もほとんどが中小企業で働いていると考えてよいであろう。

図 規模別の従業者数割合

実態② 平均年収

次に、②平均年収について見てみよう。厚生労働省の「賃金月額」によると、常用労働者が100~999人の中企業で働く20〜30代男性の平均月給は27万円、10~99人の小企業では26.3万円となっている[iii]。ここから、中小企業で働く20〜30代男性の平均月給は25万円前後であり、賞与や残業代を含めると、平均年収はおよそ300〜400万円程度と考えられる。

図 (左)中企業、(右)小企業で働く20-30代男性の賃金月額

中小企業の平均年収が少子化に与える影響

前回の記事で紹介した内閣府の資料(30代男性の年収と結婚の関係)のグラフを見ると、30代男性で年収が300 万円台だと、結婚できるのは49.5%と、約半数に留まる。安定した収入が求められる中で、この年収では生活費や子育てに対する不安が大きく、結婚を先延ばしにするケースが増えている。その結果、中小企業で働く若者にとって結婚が現実的な選択肢ではなくなりつつあるのだ。
男性の半数しか結婚していない状況では、当然結婚の数が減り、子どもの数も減っていく。この悪循環が、いわば少子化における「風が吹けば桶屋が儲かる」のメカニズムである。つまり、日本の人口減少の根本的な原因は、「中小企業で働く若者の給料が少ない」ことにあると考えられる。

まとめ

結論として、日本の20〜30代男性のほとんどが中小企業で働いており、平均年収は300〜400万円程度であることがわかった。年収が300〜400万円の30代男性のうち、約半数しか結婚できていない現状を考えると、結婚が難しいのも無理はない。この状況が続けば、結婚する人が減り、それに伴って子どもの数も減り、結果として人口減少がさらに進むことになるであろう。

したがって次回の記事では、なぜ中小企業で働く若者の給料が少ないのかを分析する。「①売上が増えない」、「②配られる給料が増えない」、「③引かれるお金が増えた」この3つの仮説に分解し、考察していきたい。


[i] 中小企業庁「2024年版中小企業白書」(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/PDF/chusho/07Hakusyo_fuzokutoukei_web.pdf
[ii] 中小企業庁「2024年版中小企業白書」(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/PDF/chusho/07Hakusyo_fuzokutoukei_web.pdf
[iii]  厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/dl/13.pdf

監修:一般社団法人人口減少対策総合研究所理事長 河合雅司
執筆協力:株式会社Revitalize取締役兼CBP 増山達也・CFO 木村悦久、小村乃子


文責

片桐 豪志

株式会社Revitalize 代表取締役兼CEO

三菱総研、Deloitte、McKinseyを経てRevitalizeを創業。中小企業・SU・イノベーション・産学連携の政策・事業の企画立案・実行支援に強み。一番長くを過ごしたDeloitteではパートナーまで務め、イントレプレナーとして多数の新規事業立ち上げとスケールアップを実現してきた。より根本的な社会課題解決に取り組むべく、創業を決断。