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#16 海外市場の成長を自社の成長につなげる – 日本経済復活のための5つの戦略〈5〉

前回の記事では、財務省貿易統計から、【戦略④】「海外への資金流出を減らして国内の生産を増やす」に焦点を当てて、目の前の富の流出をいかに食い止めて自国に取り戻すかを検討した。

我が国では機械、エネルギー、食糧など輸入依存の品目が多く、兆円単位の膨大な国富が毎年海外に流出している。これを幾分かでも国内生産できれば、その分の経済成長を手にすることができるわけだが、現在すでに輸入に依存している産業がすぐに国内生産に切り替えることは当然ながら難しい。数十年単位での準備が必要である。

本記事が戦略⑤として最後に示すのは、シンプルに海外進出である。日本市場が縮小していく中、海外進出は避けられない。にもかかわらず多くの中小企業はいまだ国内にとどまっており、今後の進出が期待される。もちろんハードルは言語や文化ではあるが、そうも言っていられない状況が10年、20年後にはやってくるため、多くの中小企業が海外進出にチャレンジすることが期待される。

本記事では、現在の中小企業の海外進出の状況を確認しつつ、今後進出がさらに進んだ場合のGDP貢献も推計してみた。

日本経済復活のための5つの戦略

  1. 【戦略①】とにかく生産性を上げ続ける
  2. 【戦略②】全国で新規事業を立ち上げて売上を伸ばし続ける
  3. 【戦略③】革新的な技術で人口に頼らない経済の仕組みをつくる
  4. 【戦略④】海外への資金流出を減らして国内の生産を増やす
  5. 【戦略⑤】海外市場の成長を自社の成長につなげる← 今回の記事

【戦略⑤】海外市場の成長を自社の成長につなげる

日本の中小企業が海外進出を加速すれば、最大で年間約10兆円規模のGDP押し上げ効果が期待できる可能性がある。

国内中小企業の海外進出の現状

国内市場の限界と中小企業の生存戦略

日本の中小企業は、国内市場の縮小という構造的な課題に直面している。人口減少と高齢化により、消費市場は年々縮小し、地域経済の活力も低下傾向にある。特に地方に拠点を置く企業ほど、需要の減退と人材不足の二重苦に悩まされている。

こうした状況下で、中小企業が持続的に成長するためには、国内市場に依存しない収益源の確保が不可欠だ。その有力な選択肢が「海外進出」である。グローバル市場には、人口増加と所得向上が続く国々が多く、特にアジア・アフリカ・中南米では日本製品への信頼も根強い。

現状:海外進出している中小企業はまだ少数

2024年の中小企業基盤整備機構の調査によれば、海外展開を実施している中小企業は全体の13.3%にとどまる。関心がある企業を含めても約3割であり、7割以上の企業は海外市場に対して消極的な姿勢を保っている。

この背景には、海外人材の確保、為替リスク、現地パートナーの不在など、実務的な障壁がある。また、補助金や融資制度の認知不足も進出の足かせとなっている。

海外進出による効果

海外進出による企業成長の定量的効果

経済産業省の通商白書(2023年)では、輸出や海外直接投資を開始した中小企業は、開始から5年後に売上高・雇用者数・資本ストックが有意に増加する傾向があると報告されている。具体的には、従業員50〜99人規模の企業が輸出を開始した場合、5年後の売上高は平均で約20〜30%増加する。製造業の海外直接投資企業では、雇用者数が10〜15%増加するケースもある。この成長がGDPに与える影響を試算すると、以下のような定量的推計が可能だ。

GDP貢献の試算:最大10兆円規模の可能性

日本の中小企業数は約330万社。そのうち、製造業・卸売業・小売業など海外展開に適した業種は約100万社と見積もられる。

あくまで仮定として、このうち30%(約30万社)が今後5年間で海外進出を果たし、平均して年間1億円の追加売上を達成した場合、総売上増加額は3兆円となる。さらに、雇用創出や設備投資による波及効果を加味すると、乗数効果(1.5〜2倍)を通じてGDPへの貢献は最大で6〜10兆円規模に達する可能性がある。

これは日本の名目GDP(約600兆円)の1.0〜1.7%に相当し、単年度の経済成長率を0.5〜1.0ポイント押し上げるインパクトを持つ。

越境ECとデジタル進出が鍵

従来の海外進出は現地法人の設立や工場展開が中心だったが、近年は越境ECやSNSを活用した「軽量型進出」が注目されている。特に消費財や食品、雑貨などを扱う企業では、現地拠点を持たずとも販路を拡大できる環境が整いつつある。

このモデルは初期投資が少なく、撤退リスクも低いため、地方の小規模事業者でも実行可能だ。実際、越境ECを活用した企業の中には、年商数千万円規模の輸出を達成している例もある。

政策支援と今後の展望

政府は「新規輸出1万者支援プログラム」などを通じて、輸出未経験の中小企業の掘り起こしと支援を進めている。補助金、専門家派遣、商社とのマッチングなどが一体となった支援体制は、今後の海外展開の加速に寄与するだろう。

また、地域金融機関や自治体が連携し、現地市場の情報提供やリスク管理支援を行うことで、より多くの企業が安心して海外に挑戦できる環境が整う。

まとめ:中小企業の海外進出は日本経済の新たな成長エンジン

国内市場の限界が明確になる中で、海外進出は中小企業にとって「生き延びるための選択肢」から「成長のための戦略」へと変化している。今後、より多くの企業がグローバル市場に挑戦すれば、日本経済全体の活力も高まり、地域経済の再生にもつながる。

中小企業の海外展開は、単なる販路拡大ではなく、日本の未来を支える新たな成長エンジンとなる可能性を秘めている。

以上、日本経済を復活させるための5つの戦略として、以下を順に整理しながら述べてきた。人口減少が取返しのつかないレベルにまで進むまでにDXやAIで生産性を上げて時間稼ぎをしながら、残り4つの方法で外貨を稼ぐという少し考えれば大変シンプルなものである。

  1. 【戦略①】とにかく生産性を上げ続ける
  2. 【戦略②】全国で新規事業を立ち上げて売上を伸ばし続ける
  3. 【戦略③】革新的な技術で人口に頼らない経済の仕組みをつくる
  4. 【戦略④】海外への資金流出を減らして国内の生産を増やす
  5. 【戦略⑤】海外市場の成長を自社の成長につなげる

次回は、今後縮小していく日本経済を、これまで推計してきた各戦略によるGDP増加への貢献額を積み上げることでどこまでカバーできるのか、それで十分なのか、それでも足りないのか、超長期の見通しを定量的に考えてみたい。


参考文献

  • 中小企業の海外展開に関する調査(2024年) 
  • 通商白書2023年 第4節:企業の海外展開と我が国経済への裨益

監修:一般社団法人人口減少対策総合研究所理事長 河合雅司
執筆協力:株式会社Revitalize取締役兼CBO 増山達也・CFO 木村悦久、小村乃子


文責

片桐 豪志

株式会社Revitalize 代表取締役兼CEO

三菱総研、Deloitte、McKinseyを経てRevitalizeを創業。中小企業・SU・イノベーション・産学連携の政策・事業の企画立案・実行支援に強み。一番長くを過ごしたDeloitteではパートナーまで務め、イントレプレナーとして多数の新規事業立ち上げとスケールアップを実現してきた。より根本的な社会課題解決に取り組むべく、創業を決断。