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#13 全国で新規事業を立ち上げて売上を伸ばし続ければよいのか? – 日本経済復活のための5つの戦略〈2〉

前回の記事では、OECD[1]や社人研[2]の統計データより作成した分析結果に基づき、【戦略①】「とにかく生産性を上げ続ける」、すなわち既存事業の生産性の向上を図るだけでは、縮小していく日本経済に抗うことは到底できないことを示した。

もとより生産性向上の取り組みを否定するものではないが、本記事では、【戦略②】「全国で新規事業を立ち上げて売上を伸ばし続ける」に焦点を当てて、その有効性と課題を検証する。

日本経済復活のための5つの戦略

  1. 【戦略①】とにかく生産性を上げ続ける
  2. 【戦略②】全国で新規事業を立ち上げて売上を伸ばし続ける ← 今回の記事
  3. 【戦略③】革新的な技術で人口に頼らない経済の仕組みをつくる
  4. 【戦略④】海外への資金流出を減らして国内の生産を増やす
  5. 【戦略⑤】海外市場の成長を自社の成長につなげる

【戦略②】新規事業による売上拡大は有効か?

新規事業開発とは、既存の事業とは異なる新しい収益の仕組みをつくる取り組みである。具体的には、新商品の開発、新市場の開拓、その両方を組み合わせた多角化などが挙げられ、これらは新しい需要や雇用を生み、地域経済やGDP押し上げにつながる。

以上を踏まえてここでは、①2100年までのGDP推計、②開業率・廃業率の推移、③中小企業の研究開発の3点に着目し、日本の中小企業における新規事業の状況を概観する。

①   2100年までのGDP推計

まず、日本経済の将来の規模を推計し、いくら稼ぐ必要があるのかその規模感を把握しておこう。(図表1) 

内閣府「国民経済計算」と総務省「労働力調査」に基づき作成した日本のGDP推移と将来推計によれば、1994年から2024年の30年間で名目GDP(青・左軸)の年平均成長率は0.62%と低成長だった。現状の成長ペースを前提とした「名目GDP単純推計」(緑・左軸)では、2100年にGDPは990兆円(2024年比で約2倍弱)となる見通しだ。

出所:2024年まで:名目GDP実績=内閣府「国民経済計算」、就業者数実績=総務省「労働力調査」よりRevitalize作成、2025年以降:本推計結果よりRevitalize作成

しかし、前回の記事で示した通り日本の人口は急減局面に入っており、過去30年間の労働生産性の年平均成長率もわずか0.18%にすぎない。そのため、過去の延長線上での楽観的な成長シナリオよりも、むしろ縮小シナリオの方が現実的である。

将来人口推計を反映させた「名目GDP現実的推計」(赤・左軸)では、2100年のGDPは358兆円に縮小し、単純推計との差は632兆円に及ぶ。

前回の記事で結論づけたように、「生産性を上げ続ける」だけではこの差を埋めることは出来ない。そこで生産性向上と同時に取り組むべき方策の一つとして挙げたいのが、【戦略②】「全国で新規事業を立ち上げて売上を伸ばし続ける」ことだ。

①   開業率・廃業率の推移

「全国で新規事業を立ち上げて売上を伸ばし続ける」手段の1つとして、新規事業のために新たに会社を興すことがある。そこで起業の実態を把握すべく、日本の開業率と廃業率について見てみよう。(図表2)

出所:中小企業庁「2023年版中小企業白書 図2-2-54開業率・廃業率の推移」よりRevitalize作成

中小企業庁「2023年版中小企業白書」に基づき作成した日本の開業率・廃業率の推移によると、2021年度の「開業率」は、2020年度から低下して4.4%となっている。一方で、「廃業率」も同じく低下して3.1%となっている。

過去の実績を長期的に見た限りにおいては、開業率は低下・停滞傾向にあり、新規事業を興す活動としての起業が活発であるとは言い難い。さらに言えば、日本全国で後継者不足や人手不足倒産が言われる中でも廃業率は下がり続けており、新陳代謝も低下してきていることが伺える。

①   中小企業の研究開発

とはいえ、過去のデータだけを見て「新規事業の立ち上げが困難」と結論づけるわけにはいかない。最後に、新規事業開発活動を行う上でのベースとなる、中小企業における研究開発の状況を見てみる。(図表3)

出所:中小企業庁「中小企業実態基本調査(令和4年) 統計表 8.研究開発の状況、産業別・売上高別表よりRevitalize作成

中小企業庁「中小企業実態基本調査(令和4年)」に基づき作成した中小企業の研究開発の状況によると、研究開発を行う中小企業は全体の約2.3%にとどまる。ただし売上規模が大きい企業ほど研究開発を実施する割合は高く、10億円超の中小企業では顕著に増える様子が見て取れる。

全国の中小企業約300万社のうち、売上規模が10億円超に達するのは10万社程度であることを踏まえると、そのうち約9.2%(約9,200社)が研究開発に取り組み、研究開発を行って新規事業創出を模索している。

全体の中での割合としては小さいが、絶対数として1万社近くが研究開発活動を行っていることは、希望のあるデータであると言えよう。研究開発は競争力の源泉であり、新規事業の成功に直結する重要な取り組みである。これを裏返して考えれば、新規事業の立ち上げのためには企業規模を拡大する必要があるということになる。すなわち、研究開発に取り組める規模の中小企業を増やしていくことが、今後ますます重要になってくるということである。

まとめ

結論として、今後の急激な人口減少を加味した現実的なGDP推計と、現状の成長ペースに基づく「名目GDP単純推計」との間には、極めて大きな差があることが分かった(632兆円)。この差は生産性向上だけでは到底埋められず、日本全体で起業を増やし、研究開発を促進し、新規事業を数多く成功させる必要がある。生産性向上と新規事業開発を組み合わせただけではこの差を埋めることは難しいと考えられるが、新規事業開発が日本経済復活のために不可欠な要素であることは間違いない。多数の中小企業の新規事業開発を支援して成果を挙げる活動を推進することが引き続き重要となってくるであろう。

次回の記事では、「【戦略③】革新的な技術で人口に頼らない経済の仕組みをつくる」について検証していきたい。


[1] “Productivity levels, Japan, Annual, National Currency”, “Productivity levels, GDP per person employed, US dollars, PPP converted”, “Productivity levels, GDP per work hour, US dollars per hour, PPP converted”

[2] 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、「人口統計資料集(2024)」


監修:一般社団法人人口減少対策総合研究所理事長 河合雅司
執筆協力:株式会社Revitalize取締役兼CBP 増山達也・CFO 木村悦久、小村乃子


文責

片桐 豪志

株式会社Revitalize 代表取締役兼CEO

三菱総研、Deloitte、McKinseyを経てRevitalizeを創業。中小企業・SU・イノベーション・産学連携の政策・事業の企画立案・実行支援に強み。一番長くを過ごしたDeloitteではパートナーまで務め、イントレプレナーとして多数の新規事業立ち上げとスケールアップを実現してきた。より根本的な社会課題解決に取り組むべく、創業を決断。