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#10 「市場開拓の努力不足」ではないか?日本経済停滞の原因を解説

前回までの記事では、中小企業庁「2024年版中小企業白書」および経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」に基づき、企業や働く人が多い割に市場規模が小さい産業が存在しており、その一因として、産業によっては仮説①「過当競争」が起きていることを示した。

既存の市場にプレーヤーが多すぎることで市場を広げる余力を失い悪循環に陥っているとすれば、それを断ち切るには「市場開拓の努力」が必要である。本記事では、仮説②「市場開拓の努力不足」に焦点を当て、日本経済停滞の背景を検証する。

日本経済停滞の背景

まず、働く人が多い割に市場規模が小さい理由は、大きく2つに分けられる。

仮説②「市場開拓の努力不足」を検証するためには、日本の市場規模の推移を見る必要がある。ここでは、①世界と比較した日本のGDPの推移、②産業別に見るGDPの推移という2つの観点から考察する。

①     世界と比較した日本のGDPの推移

まず、日本の経済規模全体の推移を見てみよう。お気づきの方も多いかもしれないが、冒頭のイメージ画像はアメリカ(青)、中国(オレンジ)、日本(赤)のGDPの推移グラフを示している。図表1に示した通り、この30年間アメリカは安定した成長を続け、世界最大の経済大国の地位を維持している。中国は急成長を遂げ、2010年には日本を抜いて世界第2位の経済大国となった。

一方で、日本はほとんど成長しておらず、近年は減少傾向すら見られる。2022年にはドイツに抜かれ、2027年ごろにはインドにも抜かれる見通しである。

図表1 アメリカ・中国・日本・ドイツ・インドの名目GDP推移

出所:IMF, World Economic Outlook Database, October 2024よりRevitalize作成、※インドの推計のみ2024年以降

「規模だけが幸福を決めるものではない」との意見もあるが、現実として経済力は国家の競争力の重要な基盤である。実際に日本はいま、食糧輸入での買い負けやエネルギー交渉での不利、研究者の海外流出など、国家間の経済力の差による様々な課題に直面している。

バブル崩壊以降、リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍など、日本には様々な経済的困難があったにせよ、こうした事情は日本だけの問題ではない。各国とも各国なりの経済的困難にさらされながらも、成長する国は成長を続けている。人口減少や高齢化に伴う需要の減少という日本が先行してきた構造的なマイナス要因を割り引いたとしても、こうした事実を踏まえると、日本は「市場開拓の努力不足」と言わざるを得ないのではないだろうか。

②    産業別に見るGDPの推移

次に、日本経済停滞の原因を深掘りするため、日本のGDPの推移を産業別に見てみる。図表2は、総務省「令和5年度 ICTの経済分析に関する調査」に基づき作成したものである。

図表2 実質GDPの産業別内訳の推移

出所:総務省「令和5年度 ICTの経済分析に関する調査」よりRevitalize作成

これを見ると、「情報通信産業」(56.5兆円)と「対事業所サービス」(43.2兆円)は、長らく成長を続けている。「不動産」(65.6兆円)や「商業」(62.7兆円)は、「輸送機械」(14.3 兆円)の約 4 倍と規模こそ大きいものの陰りが見られる。「医療・福祉」(36.1兆円)は2010年代半ばまでは成長していたが、近年は減少傾向にある。「建設」(23.9兆円)や「対個人サービス」(19.7兆円)も含め、陰りが見られる産業では、すでに人口減少や高齢化による消費力低下の影響が色濃く出始めていると考えられる。

ここで重要なのは、成長している産業と衰退している産業が混在し、成長の効果が相殺されて全体として伸びていないことである。たとえば情報通信産業は省力化を進める分野であり、生み出した余剰の時間で新たな付加価値を生み出す力があるはずだが、十分に生かしきれていない。雇用が硬直化していて優秀な人材の成長分野へのシフトが進まず、成長産業が伸びきれていないことが足枷となっていると考えられる。結果として、産業構造のダイナミックな転換も起こらず、日本の「市場開拓の努力」は、人口減少による経済規模の縮小という大きな流れに押し負けていると見られる。

まとめ

結論として、日本経済はこの30数年ほとんど成長しておらず、多くの産業でも成長が鈍化、あるいは縮小が進んでいることがわかった。そもそものパイが増えていない中での過当競争が続いていることが、長期停滞の背景と考えられる。そしてそのパイを広げるための「市場開拓の努力」は、人口減少による経済規模の縮小という大きな全体動向に押し負けているということが示唆された。

この長期縮小に立ち向かうためには、次の5つの戦略が考えられる。①ひたすら生産性を上げていけば何とかなるのか、②新規事業開発を日本中で行い売上を高め続けるのか、③革新的イノベーションで人口に依存しない経済構造をつくるのか、④富の海外流出を減らして国内生産を増やすのか、⑤海外市場の成長を取り込むのか、である。

次回以降の記事では、「これらの戦略は現実的に実行可能なのか」を重要な観点として検証をしていきたい。


監修:一般社団法人人口減少対策総合研究所理事長 河合雅司
執筆協力:株式会社Revitalize取締役兼CBP 増山達也・CFO 木村悦久、小村乃子


文責

片桐 豪志

株式会社Revitalize 代表取締役兼CEO

三菱総研、Deloitte、McKinseyを経てRevitalizeを創業。中小企業・SU・イノベーション・産学連携の政策・事業の企画立案・実行支援に強み。一番長くを過ごしたDeloitteではパートナーまで務め、イントレプレナーとして多数の新規事業立ち上げとスケールアップを実現してきた。より根本的な社会課題解決に取り組むべく、創業を決断。